彼は145歳だか、148歳だか。
すでに墓石の下である。
墓石は低く平べったい長方形の石が横たわっている。
特に模様や文字などは無かったように記憶している。
私は、その145歳だか148歳だかの人物に会いに来た。
彼を起こすにはなにやら儀式が必要だった。
硯より一回り大きいくらいの、
何か不可解な文様の入った石を墓石の上に置き、
その上から、墓参りの要領で水をかける。
なんていったって、145歳だ。
どんな物体が出てくるのか見当もつかないが
ホラーやオカルトが苦手な麻美は
内心は泣きそうになりながらも、おくびにも出さなかった。
平べったかった墓石は気がつくと、
一部かまくら状に盛り上がり、係りの人と思しき人は
そのかまくらを、てっぺんを基点にぐるんとして起き上がらせた。
すると、どうなっているやら、
中に眠っていた人もそれに合わせて起き上がってきた。
重そうだ。ゆっくりと、重病人を起き上がらせるように。
出てきたのは、そうだな、50代から70代といったところだろうか。
中肉中背より、少しふくよかか。
こうなると、死人といってよいのか、それとも老人を呼ぶべきか、
その彼は白っぽい着物を着ていた。
話をした。
内容はわからない。
145歳とか148歳と聞いて、
しかも墓石の下からの登場でびびっていたがなんてことはない。
話すのが好きで、女の子が好きなおっさんだった。
油断すると膝枕を求められそうな、そんなおっさんだ。
実際、その膝枕からじりじりと逃げていた。
だから、会話の終盤は中身のない相槌しか打っていなかった。
そろそろ戻るようだ。
墓石の所定の場所に戻り、
足を伸ばし、長座の姿勢でへその前あたりで軽く指を組んだ。
話しかけてちょっかいを出してみた。
さっきまでだったら、ノって返してきたが、もう帰る時間なのだ。
麻美の話しかけに会釈だけ返し、静かに目を閉じた。
とたんに、さみしくなった。
あぁ、もうお別れの時間なのか。
そうか。さよなら。
PR